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FLAMENCO 曽根崎心中
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2004年
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ヘレスで観た「FLAMENCO 曽根崎心中」

スペイン音楽・文化研究家
濱田滋郎
今年3月、ヘレスまで行き、「マミ・イ・ヒロ」こと鍵田真由美・佐藤浩希フラメンコ舞踊団による「曽根崎心中」スペイン初演に立ち会えたのは、私としても非常にすばらしい、まさしく忘れ難い体験であった。
 翌日の「ヘレス日報」の一面トップを飾ったそれをはじめ新聞記事のありかたは、フラメンコに寄せる“本場中の本場”の誇りと、それ故に生じる排他思想を考慮にいれてみるとき、まさしく「奇蹟」の名にも値したと言えるだろう。
 上演が終った瞬間、サラ・ラ・コンパニーアの聴観衆は、ほとんど一斉に、全員が立ち上がって拍手を続けた。日本から応援に駈けつけた出演者の身内や友人たちだけではない。ヘレスの人びとも、われ勝ちに立って、熱い拍手と歓声とを舞台に送り続けたのである。私の席の近くに、まだ5、6歳だろうか、可愛い男の子を連れて観に来ていた初老の婦人がいた。その婦人が私をつかまえ、あからさまな感動の面 持ちで、こう告げたのである―「あなた、この子が最後まで、本当に一生懸命に観たんですよ……」
 それはけっして、「私の孫(?)よ、おとなしくて偉い子でしょう」と自慢したのではなかった。「こんな子供まで、この舞台には心から魅了されて観たのですよ!」と、感動を伝え、讃えたかったからこその言葉であったのだ。
 日本人がキモノ(着物をモチーフにした衣装)を着てフラメンコを踊り、日本語の歌によって物語が進められるという、ある面 では「きわもの」だという先入観を抱かれても仕方がないような企画が、掛値なしの感動を呼ぶひとつの芸術作品として結晶した理由は、果 たしてどこにあるのだろうか。
 ひとくちに言うなら、それはやはり、作者かつプロデューサー、音楽監修である阿木燿子・宇崎竜童のコンビ、実演する側の代表者たちである鍵田真由美・佐藤浩希のコンビをはじめとして、アーティストたち、裏方さんたちのすべてが抱いたと言って過言ではない「志の高さ」にあったのではなかろうか。もちろん、2001年に初演を行って以来、年ごとに再演・再々演を重ね、すべてにわたって磨きをかけると同時に、踊り手も歌い手も音楽家たちも、みなそれぞれに作品を“生きる”境地に及んだところで、ヘレス公演の話がまとまったという、タイミングの良さも考えなければなるまいが。
 ともかく、3月9日のヘレス初演の前々日、同市へ着いた私は、さっそくリハーサルを観せてもらった。同席された阿木さんが「もうわかってるはずなのに、ふしぎと観るたびに涙が出て……」と洩らされたが、本当にリハーサルの段階から、それは万人を圧倒するほどに真剣な気の入れようであった。翌々日、つまり上演当日のゲネプロももちろん同様で、「こんなに本物の気合を入れ続けで、本番はもう、却って疲れが出てしまわないだろうか?」と心配になったほどである。だが、余計な心配は無用。緊張は本番において、無事、最上の高まりを見せた。
 舞台上のことに関して言えば、真由美、浩希のひとしお迫真の度合いを増した一挙手、一投足は言うまでもなく、悪者役の矢野吉峰にも一段と磨きがかかった。舞踊団の文字どおりすべての踊り手たちに対して、また言うまでもなく見事に「役」をつとめ上げた歌い手たち、ユニークな音楽でしっかりと物語り進行の鋪道を敷いた第1ギターの鈴木尚以下ミュージシャンたちに対して、一人ひとりに、「なんと見事に、あなたがたは責任を全うされたのだろう!」と讃嘆の言葉を私は捧げたい。
なお、ヘレスの著名なジャーナリストであるペペ・マリン氏がスペイン語によるナレーター役をつとめたことも、少なからず、公演の成功を助けたと思う。ちなみに、私はこのたび、そのナレーションと、歌われる歌(すべて日本語)全部のスペイン語訳(公演プログラムに添付された)を担当しており、ほんの少しでも、この記念すべき公演にお手伝いができたことを心からうれしく感じている。
 今回の公演にあたり尽力をいとわなかったヘレスのアーティストの一人、カンタオールのアントニオ・マレーナ“エル・マレン”は「できればビジャマルタ(ヘレスの代表的劇場)でこれをやりたかったなあ……」と述懐していたが、きっと遠からず、それも実現しそうな気がする。否、ヘレスのみならず、たとえばセビージャやマドリードでの上演も、もし事情が許すなら……と、日本の“世話物”、愛と死のドラマがスペイン人の心を強く打った様子を見とどけた今、夢はおのずとふくらむ。(パセオ・フラメンコ2004年8月号より転載)

以上は、私がヘレスで「FLAMENCO曽根崎心中」を観た少し後に書いた文章で、パセオフラメンコ誌2004年8月号に掲載されたものを若干推敲し、ここに再録させて頂いた。半年が経っても、私があの公演から受けた感銘と一種誇らしい思いは、薄らぐどころか、却って却って鮮明に蘇ってくることを記しておきたい。
 
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